後藤内科医院、リウマチ科、内科

高安動脈炎

高安動脈炎

 高安動脈炎は大動脈及びその主要分枝や肺動脈、冠動脈に閉塞性、あるいは拡張性病変をきたす原因不明の非特異的大型血管炎である。これまで高安動脈炎(大動脈炎症候群)とされていたが国際分類に沿って、高安動脈炎と統一した。また、橈骨動脈脈拍の消失がよく見られるため、脈無し病とも呼ばれている。
 病名は1908年に本疾患を発見した金沢大学眼科の高安右人(たかやす みきと)博士の名に由来する。

 


 高安動脈炎の発症の機序は依然として不明であるが、何らかのウイルスなどの感染が本症の引き金になっている可能性がある。それに引き続いて自己免疫的な機序により血管炎が進展すると考えられている。また、特定のHLAとの関連や疾患感受性遺伝子(SNP)も見つかっており、発症には体質的な因子が関係していると考えられる。

 

高安動脈炎の症状

 男女比は1:8と女性に多い。発症のピークは女性では20歳前後であるが、中高年での発症例も稀でない。本邦では大動脈弓ならびにその分枝血管に障害を引き起こすことが多い。狭窄ないし閉塞をきたした動脈の支配臓器に特有の虚血障害、あるいは逆に拡張病変による動脈瘤がその臨床病態の中心をなす。病変の生じた血管の支配領域により臨床症状が異なるため多彩な臨床症状を呈する。本症には特異的な診断マーカーがなく、病初期より微熱または高熱や全身倦怠感が数週間や数ヶ月続く。そのため不明熱の鑑別のなかで本症が診断されることが多い。

 臨床症状のうち、最も高頻度に認められるのは、上肢乏血症状である。とくに左上肢の脈なし、冷感、血圧低値を認めることが多い。上肢の挙上(洗髪、洗濯物干し)に困難を訴える女性が多い。頸部痛、上方視での脳虚血症状は本症に特有である。下顎痛から抜歯を受けることがある。本症の一部に認められる大動脈弁閉鎖不全症は本症の予後に大きな影響を与える。また、頻度は少ないが、冠動脈に狭窄病変を生じることがあり、狭心症さらには急性心筋梗塞を生じる場合もある。頸動脈病変による脳梗塞も生じうる。

 本邦の高安動脈炎は大動脈弓周囲に血管病変を生じることが多い。下肢血管病変は腹部大動脈や総腸骨動脈などの狭窄により生じる。腹部血管病変も稀ならず認められ、間欠性跛行などの下肢乏血症状を呈する。また10%程度に炎症性腸疾患を合併する。下血や腹痛を主訴とする。

 

高安動脈炎の画像診断

 

高安動脈炎の診断基準

 

 

高安動脈炎の治療

 高安動脈炎の患者の20%に自然寛解が認められる。
 内科療法は炎症の抑制を目的として副腎皮質ステロイドが使われる。症状や検査所見の安定が続けば漸減を開始する。漸減中に、約7割が再燃するとの報告がある。この場合は、免疫抑制薬の併用を検討する。また血栓性合併症を生じるため、抗血小板剤(低用量アスピリンなど)、抗凝固剤が併用される。
 外科療法は特定の血管病変に起因する虚血症状が明らかで、内科的治療が困難と考えられる症例に適用される。炎症が沈静化してからの手術が望ましい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

高安動脈炎の外科的治療

 外科的治療の対象になる症例は全体の約20%である。脳乏血症状に対する頸動脈再建が行われる。急性期におけるステントを用いる血管内治療は高率に再狭窄を発症し成績は不良である。
 また、大動脈縮窄症、腎血管性高血圧に対する血行再建術は、
 1)薬剤により有効な降圧が得られなくなった場合、
 2)降圧療法によって腎機能低下が生じる場合、
 3)うっ血性心不全をきたした場合、
 4)両側腎動脈狭窄の場合である。
 いずれも緊急の場合を除いて、充分に炎症が消失してから外科手術または血管内治療を行うことが望まれる。

 

高安動脈炎の予後

 MRIやCT、PETによる検査により、本症の早期発見・治療が可能となり、予後が著しく改善しており、多くの症例で長期の生存が可能になっている。血管狭窄をきたす以前に診断されることも多くなった。予後を決定するもっとも重要な病変は、腎動脈狭窄や大動脈縮窄症による高血圧、大動脈弁閉鎖不全によるうっ血性心不全、心筋梗塞、解離性動脈瘤、動脈瘤破裂、脳梗塞である。
 比較的短期間で炎症が沈静化して免疫抑制薬から離脱できる症例もあるが、長期に持続する例も多い。高安動脈炎は若い女性に好発するため、妊娠、出産が問題となるケースが多い。炎症所見が無く、重篤な臓器障害を認めず、心機能に異常がなければ基本的には出産は可能である。しかし一部の症例では出産を契機として炎症所見が再燃し、血管炎が再燃することがある。

 

高安動脈炎のまとめ

1)1908年高安が最初に報告した。
2)大動脈炎症候群は若い女性に好発する大型 血管炎である。
3)若年女性の不明熱の鑑別にあたっては本症を必ず念頭に置くことが大事である。
4)本症の臨床症状は、傷害を受けた血管の部 位により様々な症状が出現してくるが、上肢血圧左右差、脈拍欠損は特徴的である。
5)頚部、背部、腹部、大腿部での血管雑音に要注意。
6)血沈亢進、CRP陽性。
7)若年者の胸腹部単純X線にて大動脈に石灰化像があれば本症を疑ってみる必要がある。
8)血管造影、MRAにて血管の狭窄、閉塞、拡張などを認める。 

 

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高安動脈炎の診療ガイドライン(ACR)

 2021年に米国リウマチ学会(ACR)から高安動脈炎の診療ガイドラインが出された。ただし、エビデンスレベルはlow - very lowであるため、注意して使用する必要がある。

内科的治療法

1) 免疫抑制療法を行っていない重度の活動性のある高安動脈炎患者の場合、ステロイドパルス点滴療法後に高用量の経ロステロイドを使用するよりも、高用量のステロイドを経口で開始することを推奨する。

 

2) 新規の高安動脈炎患者では低用量の経ロステロイド(プレドニゾン 10 mg以下)よりも高用量の経ロステロイド(プレドニゾン 1 mg/kg/日、最大 80 mg)で治療開始することを推奨する。

 

3) ステロイドを使用後少なくとも6から12か月経過し、寛解を達成した場合、長期に低用量ステロイド(プレドニゾン 10 mg以下)を寛解維持目的で使用するよりも、ステロイドを漸減中止することを推奨する。

 

4) ステロイド単剤で治療するよりも、ステロイド以外の免疫抑制剤(アザチオプリン、レフルノミド、メトトレキサート、ミコフェノール酸モフェチル、シクロホスファミド、TNF阻害剤)をステロイドに併用することを推奨する。

 

5) 活動性のある高安動脈炎患者の場合、初期治療として、トシリズマブを併用するよりも、他のステロイド以外の免疫抑制剤(アザチオプリン、レフルノミド、メトトレキサート、ミコフェノール酸モフェチル、シクロホスファミド、TNF阻害剤)を併用することを推奨する。アバタセプトは推奨しない。

 

6) ステロイド単剤で治療抵抗性の場合、トシリズマブを追加するよりもTNF阻害薬を追加することを推奨する。
<解説> 委員会はトシリズマブよりもTNF阻害薬を支持した。これは、高安動脈炎におけるTNF阻害薬の臨床経験とデータがトシリズマブよりも多いためである。観察研究では、TNF阻害薬が寛解を誘導し、再発を減少させることが示されている。 高安動脈炎におけるトシリズマブの臨床経験は、無作為化対照試験および小規模な症例報告で実証されている。無作為化試験では、トシリズマブ群で再発までの時間が長くなる傾向が見られたが、その差は統計的に有意ではなかった。しかも、その研究は症例数が少なかった (36名の症例)。注目すべきことに、トシリズマブの使用は急性期炎症反応(血沈、CRP)にも影響を与え、疾患活動性を測定する際に影響を与える可能性がある。したがって、委員会はTNF阻害薬の使用を支持しているが、特にTNF阻害薬が禁忌である場合は、トシリズマブも考慮できることを認識している。

 

7) 無症候性で炎症所見も陰性だが、既知の血管病変の画像上の悪化を認める場合、免疫抑制剤を強化したり、変更したりするよりも現行治療の継続することを推奨する。
<解説> 血管病変は、効果的な治療に反応した「healing fibrosis:治癒過程の線維化」など、進行中の疾患とは関係のない多くの要因によって進行する可能性がある。 時間の経過とともに、側副血行路が頻繁に発生するため、治療的介入は必ずしも必要ではない。

 

8) 重大な頭蓋内または椎骨脳底病変を有する活動性のある高安動脈炎患者の場合、アスピリンまたは別の抗血小板療法を追加することを推奨する。

 

外科的治療法(血管形成術、ステント留置、血管バイパス、血管移植)

9) 推奨というよりは提言: 血管外科的手術(血管形成術、ステント留置、血管バイパス、血管移植)を必要とする患者の場合、手術の種類とタイミングは、血管外科医とリウマチ専門医の間で共同で決定する必要がある。

 

10) 腕や脚の跛行症状が継続するものの、活動性病変を認めない場合、手術療法を推奨しない。

 

11) 免疫抑制剤使用中にもかかわらず四肢や臓器の虚血症状の悪化を認める場合、免疫抑制療法の強化+手術療法よりも免疫抑制療法の強化のみを推奨する。

 

12) 腎血管性高血圧や腎動脈狭窄がある場合、手術療法よりも内科的治療を推奨する。

 

13) 無症候性の頭蓋内/頚部動脈の狭窄がある場合、手術療法よりも内科的治療を推奨する。

 

14) 四肢や臓器の虚血症状の悪化を認める場合、たとえ活動期であっても、手術療法は病勢が落ち着くまで遅らせることを推奨する。

 

15) 手術療法を行う際に、疾患活動性がある時は、周術期に高用量ステロイド(プレドニゾン 1 mg/kg/日、最大 80 mg)投与を推奨する。

 

経過観察

16) 疾患活動牲評価のために、炎症マーカー(血沈、CRP)を定期的にチェックするを推奨する。

 

17) 明らかな寛解状態であっても、長期的な臨床モニタリング(活動性疾患の症状所見評価、四肢血圧の測定、炎症マーカなどの臨床血液検査)を継続することを強く推奨する。

 

18) 明らかに臨床的寛解状態だが、炎症マーカーが上昇してくる場合には、免疫抑制療法を強化するよりも臨床的経過観察をすることを推奨する。
<解説> 炎症マーカーのレベルの増加は非特異的である可能性(感染の合併など)があり、炎症マーカーの増加のみの状況で免疫抑制療法を強化することは注意が必要である。.
高安動脈炎の活動性を他の臨床所見・検査ならびの画像所見で評価し、免疫抑制療法を強化の是非を考慮する必要がある。

 

血管の画像検査

19) 疾患活動性評価法としては、カテーテルを用いた血管造影よりも非侵襲的な画像検査(CT:コンピューター断層撮影血管造影、MRI:磁気共鳴血管造影、PET:陽電子放出断層撮影スキャン、血管超音波)を推奨する。

 

20) ルーチンの臨床評価に加えて、定期的に非侵襲的な画像検査(3-6ヶ月、場合によっては1年)を行うことを推奨する。

 

21) 明らかに臨床的寛解にあるものの、画像検査で新たな血管領域に炎症徴候を認めた場合(例えば、新たな狭窄や血管壁の肥厚)、免疫抑制療法を推奨する。

1-21)は上記ガイドラインの番号を参照してください。

 

高安動脈炎における自己抗体

 東北大学のグループは高安動脈炎において、自己免疫の標的となる主要な2つのタンパク質を同定した。

NATURE COMMUNICATIONS (2020) 11:1253
https://doi.org/10.1038/s41467-020-15088-0
 高安動脈炎の自己抗原としてプロテインC 受容体EPCRとスカベンジャー受容体SR-BIを世界で初めて同定した。これらに対する自己抗体は、膠原病では高安動脈炎に特異的で、EPCR に対する抗体がある患者(30.8%)では腕頭動脈の罹患、脳血管障害の発症、潰瘍性大腸炎の合併が多く認められた。一方、SR-BI に対する抗体がある患者(32.7%)では、広範囲にわたり血管が傷害され、強い炎症を示した。

 

高安動脈炎に対する新薬情報

 高安動脈炎に対し、JAK阻害剤(ウパダシチニブ:第3相 試験開始 2022年6月16日)やIL12/IL23阻害剤(ウステキヌマブ:第3相 試験開始 2021年06月29日)の治験が進行中である。また、JAK阻害剤(トファシチニブ:TOF)がメトトレキサート:MTXに比べ、高安動脈炎治療における完全寛解達成率(12ヶ月目:TOF群23/26、88.46%、MTX群13/23、56.52%、p=0.02)、ステロイド投与量の漸減において優れていたという報告もある。
Ann Rheum Dis 2021;0:1-7. doi:10.1136/annrheumdis-2021-220832

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