RS3PE症候群について説明します。
RS3PE症候群

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RS3PE症候群

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 Remitting seronegative symmetrical synovitis with pitting edema (RS3PE:R=remitting, S3=seronegative, symmetrical, synovitis, PE=pitting edema) は突然発症する対称性手足の浮腫を特徴とするリウマチ性疾患である。日本語の病名はなく、予後良好な血清リウマチ反応陰性の圧痕浮腫を伴う対称性滑膜炎という意味である。1985年にMcCartyによって最初に報告された。puffy edematous hand syndrome、あるいは、distal extremity swelling with pitting edemaと呼ばれた事もある。RS3PE症候群の発症率は50 歳以上の0.09% で、50歳以上の男性(男性:女性=4:1)に好発する。

参考文献 2)より

RS3PE症候群の症状

 RS3PE症候群は、手や足の圧痕を伴う浮腫、手足の関節炎(滑膜炎)を特徴とする。浮腫も関節炎も対称性で、朝に症状が強くなる。 浮腫は、一般的には手(ボクシンググローブハンドと呼ばれることもある)と足の背部に認められるが、足首、膝、腕、脚などの他の部位の両側性浮腫も報告されている。

参考文献 3)より

 対称性関節痛は、一般にMP関節と手関節に多く見られるが、他の関節での炎症も報告されている。手関節炎では、手根管症候群を引き起こすことがある。さらに、一部の患者では蕁麻疹の発疹などの皮膚症状も観察されている。

参考文献 3)より

RS3PE症候群の血液検査所見

 RS3PE症候群患者では、赤血球沈降速度、CRP、MMP-3などの急性期反応物質の有意な上昇が見られる。Taniらは、発症時のCRP値が異常に高値だと予後不良である事を報告した。
 リウマチ因子,抗CCP抗体(ACPA)、抗核抗体をはじめとする自己抗体は通常陰性である。
 RS3PE症候群患者の血清中の血管内皮増殖因子(VEGF:保険適用外)濃度が著明に増加しており、このVEGFによる血管透過性の亢進がRS3PE症候群患者の手足の浮腫の発現に関与しているものと考えられている。

RS3PE症候群の画像検査所見

 RS3PE症候群では、関節X線において、関節リウマチに認められるびらん等の関節破壊所見は認められない。
 RS3PE症候群の滑膜炎を検査する上で、関節エコーは有用である。RS3PE症候群と高齢発症関節リウマチ(EORA)の関節エコー所見を比較した研究が報告されている(Clinical Rheumatology 39 ; 1981-1988, 2020)。RS3PE群ではEORA群と比較して、軽度の関節滑膜炎がより広範囲に観察され、関節内滑液貯留の頻度はRS3PE群で有意に高かった。重度の関節滑膜肥大は、RS3PE群と比較して EORA群でより頻繁に見られ、一部の EORA 症例では骨びらんが観察された。指屈筋腱の腱滑膜炎は、EORA群と比較してRS3PE群でより頻繁かつ重症であった。手根伸筋腱の腱滑膜炎の頻度と重症度は2つのグループで類似していたが、指の伸筋腱の腱周囲炎は RS3PE群でより頻繁であった。
 MRIでは手の皮下浮腫、滑膜炎、屈筋伸筋腱周囲の液体貯留の所見がみられる。

RS3PE症候群の診断

 1997年にOliveによって提唱された診断基準を示す。
1)50歳以上の患者
2)両手の痛みを伴う浮腫
3)多発性関節炎の急性発症
4)関節XPにて、びらん等の関節破壊の所見がないこと、ならびに、リウマチ因子陰性


参考文献 1)より

 RS3PE症候群と鑑別すべき疾患として、リウマチ性多発筋痛症(PMR)と高齢発症関節リウマチ(EORA)が挙げられる。PMRでは通常筋肉痛が強く、関節炎が少ない点で特徴づけられる。関節リウマチは手や指などの小関節炎の頻度が高く、緩徐に発症することが多いが、高齢者では比較的な急な関節炎をおこすこともあり、鑑別が困難なこともしばしばある。当初、一部の臨床医はRS3PE症候群を関節リウマチの一種であると信じていた。また、別の臨床医はRS3PE症候群をPMRの変異型と考えていた。

他の疾患に合併するRS3PE症候群

 RS3PE症候群は根底にある悪性腫瘍の腫瘍随伴性症状(悪性腫瘍との合併率は約20%)である可能性がある。がんの診断が確立される前にRS3PE症候群を発症した症例が報告されている。胃癌、大腸癌、肺癌、前立腺癌、悪性リンパ腫、骨髄異形成症候群などとの合併が報告されている。したがって、RS3PE症候群を見た場合、随伴する悪性腫瘍がないかを精査する必要がある。腫瘍随伴性RS3PE症候群患者の血清MMP-3レベル(中央値 437.3 ng/mL) は、腫瘍のない患者 (中央値 114.7 ng/mL) よりも有意に高かった(p <0.05)と報告されている。
 RS3PE症候群は、全身性エリテマトーデス、シェーグレン症候群、結節性多発動脈炎、強直性脊椎炎、重症筋無力症、痛風および乾癬性関節炎の合併症として発症した例も報告されている。
 RS3PE症候群は、結核、パルボウイルスB19、Streptobacillus moniliformis,、Campylobacter jejuni、大腸菌、Mycoplasma pneumoniaeなどの感染症やリファンピシン、ニボルマブのような免疫チェックポイント阻害剤や糖尿病薬であるDPP-4阻害剤などの薬剤と関連して発症した例も報告されている。

RS3PE症候群の治療

 RS3PE症候群に対する最も効果的な治療法は、経口グルココルチコイド投与である。10-15mgのプレドニゾロンによく反応し、典型例では投与開始後、関節痛や浮腫などの症状が数日中(2週間以内)に改善する。発症早期にグルココルチコイドによる治療を行えば、グルココルチコイド減量後も再燃は稀で、寛緩が持続する。ただし、悪性腫瘍に関連するRS3PE症候群の症例では、高用量のグルココルチコイドが必要になったり、根底にある悪性腫瘍の積極的治療が必要になったりする場合がある。非ステロイド性消炎鎮痛剤やハイドロキシクロロキンも有用と言われている。治療抵抗性の場合は、MTXなどの免疫抑制薬投与が検討される。

参考文献

1)関節リウマチとその類縁疾患 RS3PE症候:日内会誌 106;2131-2135,2017
2)Remitting seronegative symmetrical synovitis with pitting oedema (RS3PE) An important spot diagnosis : Clinical Medicine 20 ; 524, 2020
3) Remitting seronegative symmetrical synovitis with pitting edema: a review : J Investig Med 69 ; 86-90, 2021
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