乾癬の治療について説明します。
乾癬の治療

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乾癬治療薬


Lancet. online May 27, 2015 http://dx.doi.org/10.1016/S0140-6736(14)61909-7より改変
 PASI(psoriasis area and severity index):乾癬の皮膚所見の重症度をあらわす指標です。皮膚所見(紅斑,浸潤,鱗屑)の程度と罹患部位の面積と部位によって計算し、スコアにしたものです。PASI75はPASIスコアが75%以上改善したことを表します。

副腎皮質ステロイド外用剤

 皮膚疾患の治療剤として1965年頃から使用している最も一般的な治療薬です。乾癬は炎症性角化症という位置づけであり、この炎症を抑えることで皮疹を軽快させます。薬の効き目は5段階に分けられており、数々の製薬会社からいろいろなタイプの薬が販売されています。薬の種類は、軟膏やクリーム剤のほかに、頭皮に使用するローション、スカルプ製剤、テープに薬剤を含ませ張り付けるものまでさまざまです。
 炎症している皮疹に対して、速やかに消炎効果を発揮しますが、ステロイド製剤は長期間使用した場合にさまざまな副作用があるため、急激な悪化の解消を除き、連日使用すること不向きであると考えられています。

副腎皮質ステロイド外用剤の副作用

 強い製剤を長期間、連日使用した場合、皮膚の萎縮・薄弱化・脱色、毛細血管の拡張、ステロイド酒さ、真菌などの皮膚感染症の誘発が起こります。また、強いステロイド製剤の使用を急に中止した後など、いままで以上に急激な症状の悪化が起こることがあり、これをリバウンド現象といいます。この現象はステロイド製剤(内服、外用を含む)を長期間、連日使用した場合に起こりやすくなります。

活性型ビタミンD3外用剤

 1985年大阪大学で乾癬と骨粗鬆症を同時に発病している患者さんにビタミンDの薬剤を投与したところ乾癬が軽快したために発見された治療法です。
 活性型ビタミンD3は表皮細胞(ケラチノサイト)の増殖を抑制する効果があり、それに加えて、ビタミンD3は免疫系に対しても、Th17の増殖維持に必須なIL-23産生を抑制することがわかっています。
 活性型ビタミンD3 外用剤は、軟膏のほか、ローションなどもあります。わが国にはタカルシトール(商品名:ボンアルファ) (低濃度と高濃度)、カルシポトリオール(商品名:ドボネックス) 、マキサカルシトール(商品名:オキサロール)外用薬があります。副腎皮質ステロイド外用剤と比べ、寛解後の再燃までの期間は長く、長期連用による皮膚萎縮や毛細血管拡張などの局所副作用がないことが最大の利点です。ただし、ステロイド外用剤と比べ相対的に高価であり、効果の発現までに時間がかかること(1ヶ月以上)などの問題点もあります。

活性型ビタミンD3外用剤の使用上の注意点

 活性型ビタミンD3外用剤は、大量に使用した場合、経皮吸収に伴う高カルシウム血症(症状:傾眠傾向と口渇脱水 )のリスクが常にあり、低濃度タカルシトール外用薬以外は使用量制限があることに注意する必要があります。同じ理由で、腎機能障害患者(特に透析中の患者)、レチノイド使用中の患者(経皮吸収が増大する)、経口ビタミンD3 製剤内服中の患者も注意が必要です。活性型ビタミンD3外用薬を使用中の患者は定期的に血中カルシウム濃度を測定する必要があります。
 刺激性があるため、熱感やヒリヒリ感がある場合があります。また、粘膜、目の周囲、皮膚の弱い所(常時汗をかくような部位)に使用するとかぶれや炎症を起こすことがあります。
 ビタミンD3製剤は光に弱く、皮膚に塗布した後日光に当たるとすぐに効果がなくなってしまいます。

副腎皮質ステロイド外用剤と活性型ビタミンD3外用剤

 この両者は相互に互いの欠点を補い合うことが知られており、朝晩の塗り分けなど、適宜、組み合わせて使用し、最終的には活性型ビタミンD3外用薬単独の治療をめざします。ステロイドは概してアルカリに不安定で、ビタミンD3は酸に不安定であるなどの違いがあり、両者の混合は原則として避ける必要があります。しかし、最近、画期的な薬剤が登場しました。ドボベット軟膏(商品名)という薬剤は、副腎皮質ステロイド外用剤と活性型ビタミンD3外用剤の両者を配合した外用剤で、1日1回の塗布で速やかな(約1週間)で効果が発現します。

紫外線療法

 PUVA療法:メトキサレンを内服または外用後にUVA(長波長紫外線)を照射します。最少光毒量の1/2〜2/3から照射を開始し、徐々に増量します。週2〜3回施行し、寛解後は維持療法として1〜2週に1回照射します。照射量が多いと急性の日焼け症状が現れることに注意が必要です。皮膚癌発生のリスクがないとはいえないので、累積照射量は1000J/cm2以下に抑える必要があります。
 Narrow-band UVB療法:311±2nmの狭い範囲の波長のUVB(中波長紫外線)を照射します。初回照射量は最少紅斑量(MED)の50%または0.3〜0.5J/cm2から開始し、徐々に増量します。入院では週4〜5回、外来では週2〜3回の照射を行います。PUVA療法と比べ、簡便なため(薬をつけたり、飲んだりする手間がなく)、日焼けを起こしにくく、しかもPUVA療法に匹敵する効果があるため、急速に普及しています。

シクロスポリン

 アメリカで肝臓移植を受けた乾癬患者の症状が移植の時に使用した免疫抑制剤により劇的に回復したために発見された治療法です。 
 シクロスポリンは主としてヘルパーT細胞に作用し、IL-2やIFN-γ等のサイトカイン産生・遊離を抑制することによって効果を発現するものと考えられています。また、乾癬患者の表皮角化細胞中にシクロスポリン結合部位が存在することを示唆する報告があり、角化細胞の増殖に対する直接抑制効果を有するとも考えられています。
 わが国ではネオーラル(商品名)が用いられます。ネオーラル(商品名)は、サンディミュン(商品名)でみられた胆汁酸分泌や食事の影響を受けることなく、シクロスポリン吸収を安定化させたmicro-emulsion製剤です。初期投与量は2.5〜3.0mg/kg/日、分2で開始し、効果がなければ徐々に増量します(最大5mg/kg/日まで)。寛解導入後は漸減し中止を目指します。トラフ値(投与12時間後の血中濃度:シクロスポリン血中濃度の最低値)は常に200ng/mlを超えないように投与量を調整します。
 シクロスポリンは用量依存性の腎障害、血圧上昇の副作用があり、定期的な検査を要します。また薬剤相互作用にも注意が必要です。たとえば、シクロスポリンの血中濃度を上げるものとして、グレープフルーツジュースがあげられます。

レチノイド

 レチノイドは表皮細胞の増殖を阻止するだけでなく、Th17への誘導を阻害し、免疫炎症を抑制するTregを誘導する働きをすることが明らかになりました。
 わが国ではエトレチナート(チガソン:商品名)が用いられます。初期導入量として0.5〜1.0mg/kg/日、分2で用い、軽快とともに徐々に減量します。寛解維持量は0.3mg/kg/日以下に抑えられます。催奇形性があるため、使用中のみならず中止後も女性では2年間、男性では6カ月の避妊を必要とします。骨発育障害もあり、成長期の児童には原則として用いません。口唇炎、脱毛がしばしばみられます。レチノイド内服中の患者は経皮吸収が増大していることに注意が必要です。これは特に活性型ビタミンD3軟膏との併用の際に問題となります。このほか、血中トリグリセリドの上昇や肝機能障害にも注意が必要です。

メトトレキサート(MTX)

 欧米では一般的に用いられていますが、日本では保険適応はありません。重症乾癬、乾癬性関節炎に用いられることがあります。毎日内服する薬ではなく、一般的に週に3錠(6mg)〜6錠(12mg)を12時間ごとに3回内服します。肝機能障害、間質性肺炎、骨髄抑制、催奇形性に注意が必要です。 乾癬患者では関節リウマチ患者に比べ、肝障害を起こす頻度が多いことが知られています。

アプレミラスト

 ホスホジエステラーゼ(PDE)4 阻害薬であるアプレミラスト(商品名オテズラ)が2016年12月19日、「局所療法で効果不十分な尋常性乾癬、関節症性乾癬」に対して適応承認されました。アプレミラストはサリドマイドと類似の構造を持っています。臨床試験では、催奇形性は認められていませんが、非臨床試験で胚・胎児毒性を有することが示されていますので、妊婦または妊娠している可能性のある女性には禁忌です。
 詳しくはこちらのサイトをご覧ください→オテズラ

生物学的製剤

 免疫反応に関わる特定の蛋白分子を標的として、ピンポイントに働きます。抗体製剤、融合蛋白質製剤があります。血中で分解されるため、肝腎障害を起こしにくいことが知られています。


アレファセプト:Alefacept

 T細胞のCD2分子に結合する融合蛋白で、 T細胞を消去あるいはその活性化を直接に阻害したり、抗原提示細胞とT細胞の共刺激経路をブロックします。アレファセプトは日本国内でも治験が行われましたが、効果不十分で開発が中止されました。

エファリズマブ:Efalizumab

 T細胞のCD11a分子(LFA-1)に対するヒト型化抗体です。
 エファリズマブは、投与を中止後に乾癬の再燃あるいはリバウンドを起こしやすく、紅皮症化や膿疱化といった重症化する例もありました。さらに、エファリズマブの使用患者から、免疫不全患者にごくまれに出現する、日和見感染症であるJCウイルスによる進行性多巣性白質脳症(progressive multifocal leukoenchephalopathy;PML)の発症例や死亡例が4例確認されたため、2009年に欧州とカナダで承認が取り消され、米国でも販売が中止されました。

抗TNFα阻害剤

 インフリキシマブ(キメラ型抗TNFαモノクローナル抗体):0、2、6週、以後8週間隔で点滴静注
 アダリムマブ(ヒト型抗TNFαモノクローナル抗体):2週に1回皮下注
 エタネルセプト(ヒト型TNFαレセプター融合蛋白):週1回皮下注
 インフリキシマブ、アダリムマブは日本で保険適応となっていますが、エタネルセプトは適応外です。

TNF阻害剤による乾癬初発について

 米国食品医薬品局(FDA)は、TNF阻害剤として知られている薬剤にもっと強い警告を載せるように要請しています。TNF阻害薬による治療中に乾癬(特に膿疱性および掌蹠の乾癬)が発現または悪化する可能性があることを警告しています。
 FDAは解析の結果、TNF阻害薬を使用しているすべての患者において、乾癬の初発症例69例(膿疱性乾癬17例、掌蹠の乾癬15例など)を特定しレビューを実施しました。患者の大半で、TNF阻害薬の使用中止後に乾癬が改善しました。報告症例数の多さ、およびTNF阻害薬の使用開始と乾癬発現の時間的関連性から、FDAは、乾癬発現とこれらの薬剤の使用とが関連する可能性があると結論しました。

抗IL-23阻害剤

 Ustekinumab以外は日本ではまだ承認されていません。
1)Ustekinumab  (Janssen-Cilag)
 ヒト型抗IL-23ならびにのIL-12のp40分子に対する抗体(IgG1)。
 投与法:0、4週、以後12週間隔でウステキヌマブを皮下注します。
 詳しくはこちらのサイトをご覧ください→ステラーラ
2)Briakinumab  (Abbott)
 ヒト型抗IL-23ならびにのIL-12のp40分子に対する抗体。2011年にAbbottは米国、欧州での乾癬適応申請を断念しました。
3)Tildrakizumab (Schering-Plough, Merck)
 ヒト型抗IL-23のp19分子に対する抗体(IgG1)で、p40分子には結合しないので、IL-12の活性には影響しません。
4)Guselkumab  (Janssen)
 ヒト化抗IL-23のp19分子に対する抗体(IgG1)で、p40分子には結合しないので、IL-12の活性には影響しません。


抗IL-17阻害剤

1)Secukinumab (Novartis)
 完全ヒト型抗IL-17A抗体( IgG1κ )で、IL-17Aに結合し、中和します。 
 詳しくはこちらのサイトをご覧ください→コセンティクス
2)Ixekizumab (Eli Lilly)
 ヒト化抗IL-17A抗体( IgG4 )で、IL-17Aに結合し、中和します。
 詳しくはこちらのサイトをご覧ください→トルツ
3)Brodalumab (Amgen)
 ヒト型抗IL-17受容体抗体で、抗IL-17受容体抗体と結合し、IL-17A、IL-17F、IL-17Eの生物学的活性を阻害します。
 詳しくはこちらのサイトをご覧ください→ルミセフ


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