かぜの科学

かぜの科学

かぜの科学

かぜの科学:ジェニファー・アッカーマン[著]、鍛原多惠子[訳]、ハヤカワ・ノンフィクション文庫、2014年

この本は、かぜの正体や治療法に関して、サイエンスライターが古い文献から最新の知見まで幅広く集めて解説したかぜ読み物です。この本で一番私が驚いたのは「免疫力が下がるとかぜになる」というのは間違いという点です。かぜの原因には少なくとも200種類の異なるウイルスが関与しています。そのなかでも40%を占めるのがライノウイルスです。かぜはこのように多数のウイルスによって起きるために今までワクチンが完成していないのです。

 

かぜはどのようにしてうつるのか?

インフルエンザは咳やくしゃみによって感染しますが(飛沫感染)、ライノウイルスによるかぜはどのようにしてうつるのでしょうか?この本には、どのようにかぜがうつるかに関して、すなわち、飛沫感染か、それとも、接触感染か、歴史的な研究を対比させながら、記述されています。現在、かぜは主に接触感染にて広がることがわかっています。すなわち、かぜをひいた人が鼻をかんだり、鼻のまわりを触ったりした手で、ドアノブなどを触ると、ドアノブにウイルスが付着し、別の人がドアノブに触った手で、鼻をこすったりすると感染が起こるという具合です。そこで問題となるのが、人はどれくらい鼻に手をやるかということですが、この回答実験も記載されています。ライノウイルスは唾液を介しては感染を起こしにくいということですので、経口感染も少ない(キスをしてもうつりにくい)ということになります。

 

ライノウイルスとインフルエンザウイルスの違い

インフルエンザウイルスは気道の細胞を広範囲に直接損傷させますが、ライノウイルスの感染した患者さんの鼻の粘膜を調べても、損傷を受けた細胞はごくわずかということでした。すなわち、ライノウイルスが体に入ると、このウイルスを排除しようとして、免疫を担当する細胞が反応して、炎症を起こすというのです。かぜの諸症状はウイルスの破壊的影響ではなく、ライノウイルスに対する身体反応の結果なのです。ですから、免疫力が高いヒトほど、かぜにかかりやすいいうことになります。

 

冬の時期にかぜがはやるのはなぜか?

寒さとかぜのかかりやすさには何の関連もないようです。冬の時期に流行するのは、寒さのため、人々が屋内で過ごすことが多くなり、ウイルスが人から人へ簡単に移ることがことができる点、ライノウイルスが20-40%という低湿度を好む点、冬休み明けに園児・生徒たちが学校に戻ってくる(子どもたちが大勢一緒に過ごす幼稚園・学校はウイルスにとって理想的な増殖環境となる)点などが列挙されていました。

 

疲労や睡眠不足はかぜのかかりやすさと関連するか?

ただ疲れたという感覚だけではかぜに対する感受性にはほとんど影響しないと言われています。しかし、睡眠不足は別問題です。毎晩の睡眠時間が7時間未満の人は、8時間以上寝る人に比べて3倍以上かぜの罹患率が高かったと報告されています。

 

かぜの予防に抗菌石鹸は有効か?

抗菌石鹸はかぜの予防には効果がありません。この本は米国で2010年に出版されていますが、この時点ですでに抗菌石鹸の問題について記載されていました。2016年9月2日米国食品医薬品局(FDA)は、各種の「抗菌石鹸」の販売を禁止するという声明を発表しました。抗菌石鹸が普通の石鹸よりも優れている、という科学的な証拠を得られなかったばかりか、薬用ハンドソープなどに広く含まれるトリクロサンやトリクロカルバンなどは、抗生物質耐性菌の強化や日和見病原菌の助長といったリスクを使用者にもたらす恐れがあるとのことです。

 

かぜにかかるとインフルエンザにかかりにくくなる?

ライノウイルスに感染するとインフルエンザウイルスがよりつかなくなるという報告があります。2009年の新型インフルエンザが流行していたときに、フランスではかぜが蔓延していたため、インフルエンザに罹患する人が少なかったとのことです。

 

その他、さまざまなかぜに関する情報がこの本には記載されています。治療法についても記載されています。興味のある方は御一読をお勧めします。