後藤内科医院、リウマチ科、内科

リウマチ性多発筋痛症

リウマチ性多発筋痛症

 リウマチ性多発筋痛症(polymyalgia rheumatica:PMR)は頸部、肩、腰部、大腿など四肢近位部の痛みやこわばりを生じる原因不明の炎症性疾患である。1988年Bruceによって最初に報告された。secondary fibrositis, periarthrosis humeroscapularis, peri-extra-articular rheumatism, myalgic syndrome of the aged, pseudo-polyarthrite rhizomelique, anarthritic rheumatoid diseaseなどさまざまな名称で呼ばれたが、1957年にBarbarがpolymyalgia rheumaticaという名称をつけ現在に至っている。
 男女比は1:2で女性に多く、50歳以上の中高年(発症年齢のピークは70-80歳)に多く発症する。副腎皮質ステロイドが奏功し予後良好な疾患だが、再発も高頻度に認められる。リウマチ性多発筋痛症の約6-66%に巨細胞性動脈炎を合併することがある。
 ヨーロッパの研究では、50歳以上の人口のリウマチ性多発筋痛症の発生率は、北ヨーロッパで最も高く(ノルウェーでは年間10万人あたり113人)、南ヨーロッパでははるかに低くなっている(イタリアでは年間10万人あたり13人)。 リウマチ性多発筋痛症の発生率は、アジアでは欧米に比べ低いと報告されている。

 リウマチ性多発筋痛症は、季節性インフルエンザのワクチン接種によって引き起こされる可能性があることも示唆されている。また、癌治療における免疫チェックポイント阻害剤使用後の免疫関連イベントとして、リウマチ性多発筋痛症が発症していることも報告されている。

 

リウマチ性多発筋痛症の症状

 後頸部〜肩、上腕にかけてと、腰背部〜股関節、大腿部に筋肉痛や朝のこわばり(45分以上持続する)を左右対称に生じ、痛みで首、肩、股関節を動かしづらくなる。そのため、「痛くて寝返りをうてない」「痛みやこわばりで起き上がれない」「肩や腕があがらなくなった」「衣服の着脱が困難になった」などの症状を訴える。発症日を覚えているくらい急性に発症する。起床時から午前中に症状が強くて、午後になると痛みが軽減する。夜間の痛みで不眠になることもある。筋肉痛はあるが、筋力低下は見られない。関節痛を伴うこともある。
 関節痛は手指や足趾などの小関節よりも肩や股関節などの大関節にみられ、関節の腫脹を呈する例は少ないことが、関節リウマチとの鑑別点である。全身症状として発熱、全身倦怠感、食欲低下、抑うつ状態、体重減少がある。

 

リウマチ性多発筋痛症の検査・診断

 血液検査では赤沈値の亢進やCRPの上昇など炎症反応を認める。リウマトイド因子、抗CCP抗体、抗核抗体といった自己抗体は通常陰性で、CK、アルドラーゼなどの筋原性酵素は正常である。超音波やMRI(magnetic resonance imaging)検査では、両側の肩峰下や三角筋下、大腿骨大転子下に滑液包炎を高頻度に認める。

二頭筋腱滑膜炎(短軸像)(a)および三角筋下滑液包炎(b)を示すリウマチ性多発筋痛症患者2名の肩の超音波検査所見。
Ther Adv Musculoskel Dis 2014, Vol. 6(1) 8-19

 

リウマチ性多発筋痛症の診断

Birdの診断基準(1979年)

1)両側の肩の痛み、またはこわばり感
2)発症2週間以内に症状が完成する
3)発症時の赤沈値が40mm/h以上
4)1時間以上続く朝のこわばり
5)65歳以上発症
6)うつ病または体重減少
7)両側上腕の筋の圧痛
(リウマチ性多発筋痛症の疑いの診断には、これらの基準の3つ以上が必要である)

 

2012年EULAR/ACRリウマチ性多発筋痛症分類基準

 この基準では、@50歳以上、A両肩の痛み、B炎症反応(CRP または赤沈値)の上昇を満たすことが必須条件である。さらに下記の点数表で、超音波を用いない場合(6点中)4点以上、超音波を用いる場合(8点中)5点以上でリウマチ性多発筋痛症と分類する。

項目 点数 (超音波なし) 点数 (超音波あり)
朝のこわばり(45分以上) 2 2
臀部痛または動きの制限 1 1
リウマトイド因子陰性、抗CCP抗体陰性 2 2
他の関節に症状がない 1 1
1つ以上の肩関節に、三角筋下滑液包炎 もしくは 二頭筋の腱滑膜炎 もしくは 肩甲上腕関節の滑膜炎(後部または腋窩部)かつ1つ以上の股関節に 滑膜炎 もしくは 転子部滑液包炎 なし 1
両肩関節に、三角筋下滑液包炎 もしくは 二頭筋の腱滑膜炎 もしくは 肩甲上腕関節の滑膜炎 なし 1

 

 Matsuiらは、Bird 基準を使用してリウマチ性多発筋痛症と診断された日本人患者で2012年EULAR/ACRの分類基準を満たすか否かを評価した。結果、Bird 基準に従ってリウマチ性多発筋痛症と診断された75 人の患者のうち、2012年EULAR/ACRの分類基準を満たしたのは32人(43%)のみであった。したがって、2012年EULAR/ACRの分類基準をアジア人に適用する場合、慎重に判断すべきと考えられる。
Matsui K, Maruoka M, Yoshikawa T, et al. Assessment of 2012 EULAR/ACR new classification criteria for polymyalgia rheumatica in Japanese patients diagnosed using Bird’s criteria.
Int J Rheum Dis. 2018 Feb;21(2):497-501. doi: 10.1111/1756-185X.13006. Epub 2017 Mar 6.

 

リウマチ性多発筋痛症と鑑別すべき疾患

 リウマチ性多発筋痛症に特異的な検査所見がないため、除外診断(感染症、悪性腫瘍、他のリウマチ性疾患)を行ったうえでの診断確定となる。

 

リウマチ性多発筋痛症と巨細胞性動脈炎

 巨細胞性動脈炎とリウマチ性多発筋痛症の合併はよく認められる。リウマチ性多発筋痛症診断時の巨細胞性動脈炎合併率は、6%から66%の範囲で、メタ分析からの得られた有病率の推定値は22%であった。

一方、巨細胞性動脈炎診断時のリウマチ性多発筋痛症合併率は、16%〜65%の範囲で、メタ分析からの得られた有病率の推定値は42%であった。

Seminars in Arthritis and Rheumatism 56 (2022) 152069
https://doi.org/10.1016/j.semarthrit.2022.152069

 

  (18F-FDG)-PET による画像診断の結果、巨細胞性動脈炎の徴候のないリウマチ性多発筋痛症患者の3分の1に、潜在的な大血管病変の存在が認められたと言う報告もある。したがって、リウマチ性多発筋痛症のすべての患者は、慎重に症状(新たに発生した頭痛、頭皮の圧痛、視覚的な症状、咀嚼時の顎の痛み)を評価し、側頭動脈、橈骨動脈、および足動脈の触診を含む巨細胞性動脈炎の徴候を検査する必要がある。側頭動脈および腋窩動脈の超音波検査も有用である。

 

リウマチ性多発筋痛症の治療

 治療の第1選択薬は副腎皮質ステロイドで、一般にプレドニゾロン12.5-25mg/日のステロイドが使用される。一般に、糖尿病や骨粗鬆症などの副作用の危険因子のない体重80kg以上の患者には、20〜25mg/日のプレドニゾロンで開始し、体重60kg未満で、危険因子がある場合は、12.5〜15mg/日で開始すべきである。2015EULAR/ACR recommendationでは、副腎皮質ステロイドの1日1回投与を推奨しているが、分割投与により症状が迅速に改善される症例もある。治療開始後 24〜72時間以内、ほとんどの場合1週間以内に、症状の急速な改善を経験する。プレドニゾロン12.5-25mg/日投与後に、ほとんど改善が見られない場合は、リウマチ性多発筋痛症以外の疾患(がん、感染症など:リウマチ性多発筋痛症と鑑別すべき疾患参照)を考える必要がある。初回投与量プレドニゾロン15mg/日を3-4週投与後、12.5mg/日を2〜4 週間、10mg/日を4〜6週間という形で副腎皮質ステロイドを漸減していき、その後、2-3ヶ月で2.5mg/日まで減らすことが経験的に行われている。
 副腎皮質ステロイド反応性は比較的良好だが、副腎皮質ステロイド減量中の再燃や、副腎皮質ステロイドによる副作用がある場合は、関節リウマチの治療薬であるメトトレキサート(海外では10-15mg/週、日本では6-8mg/週)、トシリズマブ(保険適応なし)を併用することがある。副腎皮質ステロイド誘発性骨粗鬆症を予防するために、ビタミンD、ビスフォスファネート製剤、デノスマブ等の投与は必須となることが多い。

 

副腎皮質ステロイド長期投与と再発

 リウマチ性多発筋痛症患者にどれ位副腎皮質ステロイドを継続投与しているのかに関するメタ解析の結果、1、2、および5年後に副腎皮質ステロイドを服用している患者の割合は、それぞれ77% (67-90%)、51% (27-80%)、および25% (18-35%)であった。

Clinical Rheumatology (2022) 41:19-31

 

 治療開始から1年で少なくとも1回の再発を経験した患者の割合は43%(25-68%)であった。急速な副腎皮質ステロイド減量が再発の頻度を高めることがわかっている。

Clinical Rheumatology (2022) 41:19-31

 

 再発は、一般に赤沈値およびCRP濃度の上昇とともにリウマチ性多発筋痛症の症状の再燃として定義される。ただし、無症候性患者における赤沈値またはCRP濃度のわずかな増加は再発ではない可能性があるため、急性期反応物質の増加だけではプレドニゾロンの用量を増やす指標にはならない。
 再発時の治療法としては、2015EULAR/ACR recommendationでは、プレドニゾロンの経口投与量を再発前の投与量まで増やし、その後4〜8 週間以内に再発時の投与量まで徐々に減らすことを推奨している。 再発を2回以上経験した患者では、メトトレキサート投与を考慮すべきである。
 日本においてリウマチ性多発筋痛症の再発に対するトシリズマブまたはMTXによる治療の効果が検討された。プレドニゾロン中止率は、トシリズマブ+プレドニゾロン群 80.0%、メトトレキサート+プレドニゾロン群 28.3%、プレドニゾロン単独群 18.8%で、トシリズマブ+プレドニゾロン群で有意なプレドニゾロン漸減中止効果が示された。

J. Clin. Med. 2021, 10, 2948. https://doi.org/10.3390/jcm10132948

 

参考文献

1) Ann Rheum Dis 2015;74:1799-1807
2015 Recommendations for the management of polymyalgia rheumatica: a European League Against
Rheumatism/American College of Rheumatology collaborative initiative
2) Lancet 2017 http://dx.doi.org/10.1016/S0140-6736(17)31825-1
Polymyalgia rheumatica:Seminar
3) Dtsch Arztebl Int 2022; 119: 411-7
Polymyalgia Rheumatica:Review Article
4) J Intern Med. 2022;292:717-732.
An update on polymyalgia rheumatica

 

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